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2010-03-08

魂が走る

観客エリアと選手か走るアスファルトを分けているポールをやっとの思いでまたぎ、人ごみをかき分けた。

少しさきに乾いたコンクリート敷きが見えたが、もう歩けない。

午前中の雨で水を含んだ芝生に倒れ込んだ。

濡れることはわかっていたが、もうそこに倒れるしかなかったのだ。

咳が止まらない。

咳込みの苦しさから逃れようとうつ伏せに寝返りを打つも、手足に力が入らず、四つん這いにすらなれない。

しばらく、そのまま。




走り切った。

たすきは確かに渡した。

一応の役目は果たせた。

春闘頑張ろう駅伝大会。

海の中道の鴨池周回コースには県内から200を超えるチームが集まった。

私は二つのチームを掛け持ち。

一周目は職場の三階入居お気楽チーム。

私は一区。

元々ゆっくり完走を目指す人たちの集まりだから、ここはあまりがんばらずにアップのつもりで行く。

練習と違い、人をぬって走らなければならない。

抜かれるとついて行きたい衝動が起こるが、ガマンガマン。

鼻で息が出来る範囲で走ろう。そう決めていた。


ゆっくり走っていると沿道の知っている者から「こら真面目に走れ」とか「なにやってんだ」等の怒号を浴びた。

いや、本番は次だから!とワケを説明しながら走る様がまた不真面目な感じを助長する。

イメージを造りながら一周を終え、次にたすきを渡した。

一口お茶を飲み、先程走ってきたコースを逆走した。

次の一周が本番、選抜チーム。

勿論、選抜チームも先程私と同時に第1走者がスタートしている。

私はゆっくりペースだったが選抜のスピードならば、第2走者が戻ってくる頃だ。

一番キツくなるのは後半の坂を登り詰めてからの松林から最後の直線。

そこで待ち構えて伴走してやる。

「まだ諦めるな!行ける行ける!」

力が抜け、スピードが落ちるこの辺で鞭を入れ、最後の力を出し切らせるのだ。

裏道を行き、コースの伴走地点に出ると、第2走者が目の前を駆け抜けて行った。

わわわー!

慌てて走って追いかけたが、走者の方が速くて追いつかない。

伴走にならないじゃない。

第2走者が走って行ったということは、たすきは第3走者に渡る。

こりゃエラいこっちゃ!

私は第4走者。


急がねば!

お気楽チームのゼッケン付のシャツから選抜ユニフォームに着替え、うがいを二回。

よし。

交代エリアに向かった。

「しましまさん、もう内村さん(第3走者)出ました。あと4分位で帰って来ると思います」

コクリと頷き、軽くその場で3、4回ジャンプした。

「あと2分」

よし、いよいよだ。

最初の100m地点に中間がいる。

ここまでのラップでペースを確認するのだ。

20秒で突っ込めれば目標タイムは切れる。


第3走者が見えてきた。


太ももを叩き、両手を上げた。

たすきを受け取り、肩に掛けた。

100m地点に仲間の姿が見えた。


「しましまさん100m!」

へ?タイムを教えてくれるんじゃなかったの?

冷静に考えみたら彼は私が何時たすきをもらい受けて走り始めたのか分からないわけだから、私のタイムを計るのは不可能。

そうか。

走りながら納得。

腕時計を見ると表示は



00’00”00


し、






瞬間移動…。




くそー!ボタン押し忘れた。


アップの時に、この100mを本番ペースで走ってタイムを確認した。

向かい風で結構タフだった。


仕方がない。


賽は投げられたのだ。

コースは左に大きく角をなして曲がり、そこから左右にカーブ。

沿道から応援の声に混じり、「おお!しましま今度は速い!」

愛想を振りまく余裕はない。

ここはカーブを最短で突っ切る。

周回コースはあまり走られない人用に800mで区切られている。

その中継地点までは鼻で息をする。

弱点の気管支をできるだけ温存する作戦だ。

後半にはアップダウンがある。

まずは登り。これがこたえる。


登り詰めてから左に曲がると松林に入る。

このあたりになると観客が減る。登り坂の疲労と先が見渡せなくなる不安から気持ちがずーんと下がる。


少し行くと知った声が聞こえた。

「しましま!まだ行ける!足を上げろ!」

ここまで来ると今までにない疲労感というか身体不全が体を支配していた。

苦しくてたまらない。

もう、ここでやめて立ち止まれば楽になる。

くそー!

負けてしまいそうだ。

「落ちてきたぞ、手を振れ!手を振ったら行ける!諦めるな!」

最後の直線。

練習の時にスタート地点にしていた場所より実際の中継地点は50mほど先になっていた。

呼吸と一緒に喘ぎ声が出ていた。


もう、限界はとっくに超えていた。

腰の位置、上体の角度、ストローク。

練習で体に強く意識付け、自分に取り込んだものはもう、消えていた。

交代エリアに入るところで伴走は後退。

左右に大勢の人が応援していたが、何も聞こえない。

素の自分。魂だけが走っていた。



大勢のなかに仲間を見つけた。


あそこまで行けば終わる。


行かなきゃ。行かなきゃ。



たすきを肩から外して次に渡した。



おわった。



ポールをまたぎ、人ごみをかき分け、芝生に倒れ込んだ。









力の入らない足を手で支え、ふらふらと歩いた。


俺は何分だった?

中継地点に行き、通りの向こう側で計時をしている仲間に聞いた。


「5分25秒です!」

最後の練習の時より少しだけ短縮されていた。

最後の直線でフォームを立て直せていれば、とか反省はある。


でも、これが今の私。

出し切れた。


アンカーはライバルチームのアンカーとゴール間際までデッドヒートを繰り広げた。

みんなで最後までやり尽くした。

結果なんていい。


素晴らしい時間をありがとう。


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No title

これはすごい!すごいですよ、しましまさん。
思わずうなってしまいましたよ。臨場感たっぷり。おもわず、息が荒くなってしまいますよ。おおー、何度読み返してみてもいいです。そのキツさ伝わってきますよ。そこまで追い込んで・・・泣けてきますよ。たかが駅伝大会!と言えばそれまで。そのたかがに全力疾走。僕は、しましまさんを本当に尊敬します。こういう先輩が世の中にいるってことが何よりうれしいですよ。

シロノさんこんにちは(^O^)

ばかですけどね。ばかにしかわからない楽しみもあるわけでして。また楽しいことを探しに行きま~す( ̄∀ ̄)
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しま・しま

Author:しま・しま
土からつくるここだけ芋焼酎「たばらそだちプロジェクト」を立ち上げました。土と食、命がつながるといいなと思います。

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